福島第1原子力発電所の放射性物質を含む汚染水を一時的に貯留するため、静岡市の清水港で海釣り公園として使われていた「メガフロート」に出番が回ってきた。
このメガフロートは長さ136m、幅46m、高さ3mの鋼製の浮体構造物。
内部には約1万8000m3の空洞があり、1万トンほどの汚染水を貯えられる。
■清水港の海釣り公園として使われていたメガフロート。
■メガフロートの上には、多目的広場などもあった。
4月5日に清水港を出て、横浜市の造船会社までえい航。
内部を仕切っている隔壁の一部に穴を開けて配管を通すなど注水しやすいように改造した後、福島第1原発の沖合まで運ばれる。
静岡市によると、東京電力から譲渡してほしいと打診があったのは3月31日。
メガフロートは水深1mほどの浅瀬に係留でき、タンカーよりも機動性が高い。
「汚染水を処理するための最も迅速で有効な手段だ」と東電の担当者は市に説明したという。
「緊急性が高いので、海釣り公園を休園して譲渡することを決めた。有償が前提で、条件は東電などと協議していく」と静岡市の小嶋善吉市長は4月1日の記者会見で語った。
かつて羽田D滑走路の候補に
メガフロートは、当初から海釣り公園のためにつくったものではない。
1999年、羽田空港D滑走路への採用を目指して神奈川県横須賀市沖での実証実験のために建造したもの。
実験では、水深20mの海面に長さ1km、幅60~120mの滑走路を浮かべて、海底に杭を打ち込んでつくったドルフィンに係留するもの。
波や風による影響を調べたほか、航空機を使った離着陸実験も行った。
国土交通省は2002年、羽田空港D滑走路の工法として、
多摩川の流れを妨げない桟橋工法、
桟橋と埋め立てを組み合わせたハイブリッド工法、
メガフロートを使った浮体工法の3工法を中心に検討されたものだ。
建設費と100年間の維持管理費を合わせた費用は、
桟橋工法が6080億円、
ハイブリッド工法が5780億円、
浮体工法が5897億円。
工期はいずれも2年半程度だった。
3工法とも施工可能だと判断されたが、結局鹿島を幹事会社とし15社で構成するJVが1者だけ入札に参加して、5985億円で落札され、ハイブリッド工法で工事を進め滑走路は10年10月にオープンした。
■横須賀市沖に浮かべた全長1kmのメガフロートの滑走路。実験は2001年3月まで続いた。
■羽田空港再拡張事業工法評価選定会議の資料の一部。
滑走路となる人工島の建設工法の1つとして、メガフロートを使った浮体工法も候補に挙がっていた。
海上空港の夢がかなわなかった実証実験用のメガフロートは、分割されて自治体などに引き取られた。
静岡県清水市(現在の静岡市)は03年、その一部を約5億円で購入して、海釣り公園として転用していた。
同メガフロートは、
兵庫県南あわじ市の「うずしおメガフロート海釣り公園」、
三重県南伊勢町の「マリンパークくまの灘」などにも係留されている。
東電はこうしたメガフロートの一部も譲渡が可能かどうか、自治体などと交渉を始めた模様だ。
■兵庫県南あわじ市の「うずしおメガフロート海釣り公園」にあるメガフロート。
■三重県南伊勢町にある「マリンパークくまの灘」のメガフロート。
実証実験に使った際の滑走路の表示が残っている。
メガフロートの研究が活発になったのは、1995年に起こった阪神・淡路大震災以降のこと。
軟弱な地盤や水深に関係なく、耐震性に優れた防災基地を海面に整備できることなどが売りだった。
しかしその後、羽田空港D滑走路への採用が見送られたり、造船の受注が回復したりしたことで、メガフロートの開発は下火になっていた。
各地でひっそりと余生を送っていたメガフロートは、東日本大震災をきっかけに世間の注目を浴びることになった。