『免震の死角』“浮き上がり落橋”が示唆する・・・

“わらべ”

2011年07月10日 12:02

東日本大震災では、建築だけでなく土木界に衝撃もを与えた津波被害がある。

多くの橋が津波で流されたのは浮力の対策がなされていなかったからだ。

浮力による被害は、免震構造のビルや住宅でも起こるとの指摘がある。



2004年に起きたスマトラ島沖地震の後、橋の津波被害の可能性を指摘する研究者がいたが、具体的な対策を実施するレベルには至っていなかった

。優先順位が高くないと甘くみていたようだ。



土木界ではここ数年、阪神・淡路大震災の教訓から地震で壊れても落橋だけはしないように対策してきた。

落橋しなければ緊急車両が通れる場合もあるし、復旧にも時間がかからない。

今回の震災でも、内陸部の橋は機能していた。

ところが、予想外のことに津波で下から持ち上げられてしまったのだ。

津波の浮力はそもそも考慮されておらず、これまでの落橋対策では効かないことが明らかになった。


津波で桁が流失した歌津大橋(宮城県南三陸町)

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津波による落橋のメカニズム。

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免震ビルや免震住宅は“浮力”を想定していない。


考えもしない方向から外力がかかったと。

下からの外力なんて全く考えていない。可能性としてはあり得るが、大震災が起こるまでは意識していなかった。

橋は上からかかる力のことは考えていたが、下から持ち上げられたらひとたまりもないのだ。


建築も同じだ。

今回の震災でも、宮城県女川町で、鉄筋コンクリート造の建物がいくつも横転していた。

津波による浮力を指摘する声がある。

浮力に弱い建物としては、開口部の少ない建物や免震建物が考えられる。

超高層建築をはじめ、引き抜き力を想定した免震建物は存在する。

ただ、津波の影響で作用する浮力などの外力については、ほとんど検討されていなかった。

高い津波の発生や建物浸水時の余震発生など、様々なリスクを想定できる。十分な検証が必要だ。



今回の津波被災地には、免震建物が建ち並んでいる地域はなかった。

だが今後、戸建住宅を含めて免震構造が普及してくると、津波や洪水による浮力の影響を受ける免震建物が増えるだろう。

今回、橋で得た教訓を生かすために、建築や住宅の専門家も、土木の専門家といっしょに対策を考えることが大切だ。

今回の震災ではクルマや船がたくさん流された。もしかすると、免震建物がどんどん流されるようなことになりかねない。

建物が流されてしまうと別の建物や土木構造物を壊す2次被害を招く。

建物の玉突き状態はゴメンだ。



宮城県女川町では、鉄筋コンクリート造の建物が津波で横転した。

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