ニュージーランド地震で思うこと

“わらべ”

2011年03月02日 18:05

ニュージーランドのクライストチャーチ近郊で2月22日に発生した地震で、語学学校「キングズ・エデュケーション」の入ったビルがほぼ全壊した。

古いレンガ造りの建造物に大きな被害が目立つ中、比較的新しいとみられる鉄筋コンクリート造6階建てのビルはなぜ崩したのか?



報道を見る限り

ビルの表側の居室部分が全壊。

ビルの裏側エレベーターなどのコア部分だけ残っている。

被災前のビル写真を見ると、柱が細く間隔も空いているように見える。

耐震機能を有する壁は、エレベーターホールがある裏側に比べて、表側には壁が少なく窓の面積が大きい構造のようだ。

おそらく、コアの耐震壁で水平(地震)力を負担し、柱は鉛直荷重(上階の重み)しか持たせない構造だったようだ。

地震で表側の壁が崩れて、支えがコアの耐震壁に偏ってしまい、そこを中心に“ねじれ振動”が起きたと考えられる。

コアを中心にねじれるように揺さぶられた柱は、あえなく限界を超えて崩壊をした。

建物の各階層スラブが折り重なるようにつぶれる“パンケーキ破壊”が起きたように、救出活動中の映像から読み取れる。


こうした崩壊のしかたは、1995年1月17日の阪神・淡路大震災でも確認された。

なにも鉄筋コンクリート造に限った崩壊メカニズムではなく、新しい木造住宅でもたくさん確認されている。

阪神・淡路大震災では古い瓦葺き木造の建物の耐震性がクローズアップされたが、新耐震で建てられたハウスメーカーの木造住宅・プレハブ住宅などでも全壊や全壊に等しい内部の損傷が起きていたことはあまり伝えられていない。


例えば阪神・淡路大震災では、1階の片面に店舗やガレージなどの大開口のあった木造の建物がたくさん倒壊しました。

また、表側に大きな部屋と大きな開口部(履き出し窓)、裏側にはトイレ・洗面・浴室などの柱や壁が多く窓の小さな部分が集中する建物。

このような建物は、語学学校ビルのように偏心(重心:建物平面形状の中心と、剛心:建物の変形に抵抗の中心点のズレ)が大きいと、剛心を中心にしてねじれるように建物が壊れた例は、建築年次の新旧を問わずたくさんありました。


サムネイルをクリックで大きくなります。

阪神・淡路大震災当時の建築基準法では、「耐力壁(スジカイ)はつり合いよく入れなければならない」という文言はあったものの、具体的な基準がなかったので、どんなに耐力壁が偏った木造の建物でも建築確認が得られていました。

施主(建築主)の安全を考えると、耐力壁を(建築基準法は最低の基準なので)法要求以上且つ、つり合いのよい設計を心掛けなければなりません。

ところが、施主は使い勝手や見栄えを優先するあまり建築士の助言など聞き入れられないことがままありました。

建築確認があれば安心・安全という誤った認識が、施主にもビルダーにもあったように思います。


静岡県では、たしか震災後1年ぐらいして“静岡県建築構造設計指針”を厳格に適用されるようになりました。

偏心率の確認、あるいは略算法にて基準値以下、あるいは確認しない場合は耐力壁を割り増して入れなければならなくなりました。

だけど下手に割り増したところで偏心を大きくしてしまうことから、私はパソコンソフトを導入して偏心率0.15以下を目途に設計を行っていました。
(県指針の偏心率は0.3以下)


やっと建築基準法が改正されたのは2000年(平成12年)でした。

木造建物の『偏心率は0.3以下であること』と規定、あわせてホールダウン金物などの使用も規定されました。

このとき偏心の確認と使用金物の選定において略算法でもよいとされましたが、私は本格的な“木造住宅構造計算ソフト”を導入して全棟正確に安全を確かめることにしました。


私は、いつも言ってることですが、

『家は倒れたら保険などで修復できますが、人の命は保険でも取り戻せません』

の信念の元、デザインや間取りなどは多少犠牲にしてでも、

耐震性=安全に配慮した設計を心がけています。



昨日

語学学校「キングズ・エデュケーション」が入居していたCTVビルを所有者は、
同ビルが22日の地震で倒壊し、日本人学生らが巻き込まれたことについて、
代理人を通じて
「心から同情を申し上げる」とコメントするとともに、
 倒壊した原因の究明に全面的に協力する考えを示した。

・・・と、ニュージーランド通信が伝えられました。


CTVビル建築当時の建築基準では、現在のような耐震設計が行われていなかったものと思われるが、ニュージーランドも日本のように耐震基準が厳しく定められました。

なぜ、これほどの耐震不足の建物が耐震改修もされずに見過ごされてきたのか?

なぜ、昨年9月のM7.0の地震後に詳しい建物調査が行われないままビルの使用を継続してきたのか?


この浜松でも良く見かけませんか?

通りに面した外観と店舗は、洗練された新しいつくり。

裏に回ると築30~40年以上の朽ち果てそうな古い建物だったって!こと。

個人住宅をすべて現在の建築基準を満たさない限り使用禁止にしてしまうことは、住宅難民が溢れてしまうので現実的でないでしょう。

しかし不特定多数が出入りする店舗や事務所などの耐震改修や建て替えを強制化するぐらいしないと、近未来の東海地震の際にCTVビルの二の舞!ということが起こりかねないのでは?と思います。


最後に、

志し半ばで命を落とさざるを得なかった方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

また、今もガレキの中に閉じ込められて

行方がわからない方々の一刻も早い救出や身元の判明、

並びに、怪我などをされた方々の早い回復をお祈りいたします。


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